前立腺がん治療の現在地

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注意: この記事は患者本人が調べた内容をまとめたものであり、医学的な助言ではありません。治療に関する判断は必ず担当医とご相談ください。

ホルモン療法を一旦中断するタイミングで良い機会なので、私の状態と今後の見込みをまとめておこうと思います。

私の状況

2023年3月に前立腺がんの告知を受けました。

生体検査では15/16本でがん細胞がみつかり、グリソンスコアは9。 TNM分類ではT4です。 骨や他の臓器に明らかな転移は現時点では見られないけれど、 前立腺全体にがんが及んでおり近隣のリンパや膀胱などに浸潤している状態です。

局所ではあるけれど手術や放射線など根治を前提とした治療は適用とならず、 ホルモン療法を実施することになりました。

ゾラデックス(LH-RHアゴニスト)+ビカルタミド(抗アンドロゲン薬)によるCAB療法(複合ア ンドロゲン遮断療法)、いわゆるホルモン療法です。

グリソンスコアが高い人、PSAが最初から高い人、転移を認める人は比較的早期に効かなくなる傾向があるとされています。私はこの3条件当てはまるので、あまり楽観はしていませんでした。

始めてみると、治療への反応はよくPSAの値も下がり直近の1年半は0.008ng/mlという数字が続いています。2024年の夏には「IMRT」と呼ばれる放射線治 療も行ないました。

今月PSAも下がり切っているので、一旦休薬しようという提案が担当医からありました。 これは「間欠的ホルモン療法」と呼ばれるアプローチで、一定期間治療した後に休薬期間を設け、PSAの推移を見ながら必要に応じて治療を再開するやり方です。臨床試験では、持続的にホルモン療法を続ける場合と生存期間に大きな差がないことが報告されています。休薬中は副作用(ホットフラッシュなど)から解放され、QOL(生活の質)が改善する可能性があります。一方で、転移性の前立腺がんでは間欠的療法の非劣性が必ずしも確立されていないという報告もあり、担当医との密な経過観察が不可欠です。

想定されるのは、休薬中にPSAが再び上昇してくるケースです。 私のように放射線治療を受けている場合は、一般的に予後は5年PSA無再発率は70〜80%だそうです。 逆に20〜30%は再発しますし、5年以降はまたわかりません。 おそらくその場合はホルモン療法を再開(復薬)することになると思います。

もしホルモン療法が効かなくなったら

ホルモン療法を再開しても、いずれ効かなくなる可能性があります。 その場合について、どうなるか調べてみました。ここからは担当医と確認したわけではありません。 素人が調査したものです。

男性ホルモンが低く抑えられているにもかかわらず、がんが増殖し始める状態を「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」と呼びます。

新規ホルモン剤への切り替えが検討されるでしょう。 エンザルタミド(イクスタンジ)またはアビラテロン(ザイティガ)が使われると思います。 従来のホルモン療法より強力にアンドロゲンの作用を抑える薬剤で、2014年から日本で使えるようになっています。ただし、初期投与から効果を示さない患者が約3割いるとされています。去勢抵抗性前立腺がんに対する臨床試験では、エンザルタミドのOS中央値1は化学療法未治療の場合で約32ヶ月、化学療法後で約18ヶ月と報告されています。

私の場合は、化学療法をやっていないので、OS中央値は32ヶ月です。

新規ホルモン剤でも進行が止められなくなった場合は、化学療法としてドセタキセル(タキソテール)の出番となります。3〜4週ごとの点滴注射で、約50%にPSAの低下や痛みの減少などの効果が認められています。外来通院で治療可能とされていますが、副作用として白血球減少などがあるようです。臨床試験でのOS中央値は約19ヶ月です。ドセタキセルを使わない場合は、16ヶ月です。

ドセタキセルに対しても抵抗性が出た場合には、カバジタキセル(ジェブタナ)があります。 同じタキサン系ですが、ドセタキセル耐性のがんにも効果があるようです。 ただし白血球の低下がより強く、感染リスクに注意が必要とされています。 臨床試験でのOS中央値は約15ヶ月です。

骨転移が出た場合は、塩化ラジウム223(ゾーフィゴ)も使えます。アルファ線を用いた放射性医薬品で、骨転移巣に集積してがんを攻撃するものです。OS中央値は約14.9ヶ月 でゾーフィゴを使わない場合より約3.6ヶ月の延長できています。

新しい選択肢

この2年程の間に、「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」に新たな選択肢が出てきました。 特にmCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺がん)の治療に大きな変化がありました。

PSMAリガンド療法 — プルヴィクト(2025年9月 国内承認)

「プルヴィクト静注」(ルテチウムビピボチドテトラキセタン(177Lu))は、2025年9月に日本で承認された放射性リガンド療法(RLT)です。前立腺がん細胞の表面に発現するPSMA(前立腺特異的膜抗原)を標的とし、そこに放射性核種(ルテチウム177)を届けてベータ線でがんを攻撃するものです。

歌手・俳優の西郷輝彦さんが2021年、ステージ4の去勢抵抗性前立腺がんに対し、当時日本では未承認だったこの「ルテチウムPSMA標的治療」を受けるためにオーストラリア・シドニーに渡航したのでご存知の方も多いかも知れません。 当時は1回160万円という高額な自費治療でした。西郷さんは2回目の治療後に骨転移の80%が消えたと報告し、24時間テレビに生出演して「がんが消えた画像をこの目で見ました」と語ったことが大きな話題になっていました。しかし、その後PSA値が再上昇し、2022年2月に75歳でご逝去されています。西郷さんの場合、全摘手術→6年後の骨転移再発→抗がん剤治療を経た末の投与であり、相当進行した段階だったことも影響したと思われます。

あれから4年。西郷さんが海外で受けるしかなかったこの治療が、「プルヴィクト」として2025年9月にようやく日本で承認されました。

適応は「PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん」です。治療前にPSMA陽性であることを画像診断で確認する必要があります。承認の根拠となったVISION試験では、ARSIおよびタキサン系薬による治療歴のあるmCRPC患者(つまり従来の標準治療を経た患者)に対し、標準治療にプルヴィクトを上乗せすることで効果が示されました。具体的には、OS中央値が15.3ヶ月(対照群11.3ヶ月)で約4ヶ月の延長、画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)中央値が8.7ヶ月(対照群3.4ヶ月)で約5ヶ月の延長です。死亡リスクは38%低減されています。すなわち、従来のシーケンスを一通り使った後の「次の手」として位置づけられているようです。

また、PSMAfore試験では、ARSI治療中に進行したタキサン未治療のmCRPC患者に対して、別のARSIへの切り替えよりもプルヴィクトのほうがrPFSを有意に延長するという結果が報告されています。OS中央値はプルヴィクト群24.5ヶ月、ARSI切り替え群23.1ヶ月で統計的有意差はありませんでしたが、対照群からプルヴィクト群への高いクロスオーバー率が影響したとされています。つまり、従来より早い段階での使用にもエビデンスが出てきています。

6週間間隔で最大6回の静脈内投与。ノバルティスは国内製造拠点の建設も進めており、2026年度の稼働開始を目指しているとのことです。

PARP阻害薬の適用拡大 — タラゾパリブ+エンザルタミド(適応拡大 申請中)

PARP阻害薬タラゾパリブ(ターゼナ)は、DNA修復に関与するPARP1/PARP2を阻害する薬剤です。2024年1月にBRCA遺伝子変異陽性のmCRPCに対して承認済みでしたが、2025年4月にBRCA変異の有無を問わないmCRPC全般への適応拡大が厚生労働省に申請されました。

根拠となったTALAPRO-2試験の最終解析では、タラゾパリブ+エンザルタミド併用群は対照群に比べてOS(全生存期間)中央値が45.8ヶ月 vs 37.0ヶ月と有意に延長しました。死亡リスクを約20%低減しています。mCRPCに対してPARP阻害薬とアンドロゲン受容体経路阻害薬の併用でOSが有意に改善した初めての報告とされています。

この療法はmCRPCの一次治療(去勢抵抗性になった直後)として評価されたものであり、承認されれば従来のシーケンスの初手に加わる可能性があります。遺伝子変異の有無を問わない点が大きいです。

次世代アルファ線治療(治験段階)

プルヴィクトがベータ線を使うのに対し、さらに強力なアルファ線を用いたPSMA標的治療薬の開発が国内で進んでいます。

大阪大学では、アスタチン-211を用いた治療薬([At-211]PSMA-5)の医師主導治験が2024年6月に開始されました。アルファ線はベータ線より飛程が短くエネルギーが大きいため、がん細胞を強力に攻撃しつつ正常組織への影響を抑えられるとされています。静脈内投与で全身の転移巣に治療可能で、専用病室への入院が不要という利点もあります。

福島県立医科大学でも「²¹¹At-NpG-PSMA」という純国産の治療薬候補の治験が始まっています。放射性核種が体内で外れてしまう「脱アスタチン化」のリスクを化学構造の改良で低減したものです。

いずれもまだ治験段階であり、実用化は先ですが、日本発の治療法として注目に値します。

治療のシーケンスはどう変わりつつあるか

従来のmCRPC治療シーケンスを簡略化すると、以下のような流れでした。

ホルモン療法(CAB療法)が効かなくなる → 新規ホルモン剤(イクスタンジ or ザイティガ) → 化学療法(ドセタキセル → カバジタキセル) → 骨転移があればゾーフィゴ ここに新しい選択肢が加わると、以下のようになりつつあります。

ホルモン療法(CAB療法)が効かなくなる → 新規ホルモン剤(イクスタンジ or ザイティガ) + PARP阻害薬(タラゾパリブ)の併用 ← 申請中 → 化学療法(ドセタキセル → カバジタキセル) → PSMAリガンド療法(プルヴィクト) ← 2025年承認 → 骨転移があればゾーフィゴ → (将来) アルファ線治療 ← 治験中 加えて、遺伝子検査の結果によっては、BRCA変異陽性の場合にオラパリブ(リムパーザ)+アビラテロン、またはタラゾパリブ+エンザルタミドが選択肢に入ります。

各治療法の有効期間(臨床試験のOS中央値)

参考として、各治療法の主要な臨床試験で報告された全生存期間(OS)中央値をまとめておきます。いずれも去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する数値で、治療群 vs 対照群の比較です。対象となる患者の治療歴や病態がそれぞれ異なるため、単純に数字を横並びで比較することはできませんが、治療の引き出しがどれだけあるかのイメージにはなると思います。

  • 初回ホルモン療法(CAB療法)の有効期間の中央値は約36ヶ月(3年)。ただし個人差が非常に大きく、数ヶ月〜10年以上。(注:これは「治療が効果を発揮し続ける期間=奏効期間」の中央値であり、下記のOS中央値とは測っているものが異なる。36ヶ月で効果が薄れて去勢抵抗性に移行する人が半数程度いるという意味であり、36ヶ月で亡くなるという意味ではない)
  • エンザルタミド(イクスタンジ)は、化学療法未治療の場合でOS中央値 約32ヶ月 vs 約30ヶ月(PREVAIL試験)。化学療法後ではOS中央値 約18ヶ月 vs 約14ヶ月(AFFIRM試験)。(注:OS中央値は「その治療を開始してから亡くなるまでの期間」の中央値。途中で効かなくなった後に受けた後続治療による延命効果も含まれている。以下同様)
  • アビラテロン(ザイティガ)は、化学療法未治療の場合でOS中央値 約35ヶ月 vs 約30ヶ月(COU-AA-302試験)。化学療法後ではOS中央値 約15ヶ月 vs 約11ヶ月(COU-AA-301試験)。
  • ドセタキセル(タキソテール)のOS中央値は約19ヶ月 vs 約16ヶ月(TAX327試験)。
  • カバジタキセル(ジェブタナ)のOS中央値は約15ヶ月 vs 約13ヶ月(TROPIC試験)。
  • ゾーフィゴ(ラジウム223)のOS中央値は約14.9ヶ月 vs 約11.3ヶ月(ALSYMPCA試験)。骨転移がある場合のみ適応。
  • プルヴィクト(ルテチウム177-PSMA-617)のOS中央値は約15.3ヶ月 vs 約11.3ヶ月(VISION試験、ARSI+タキサン既治療後)。より早期(タキサン未治療)のPSMAfore試験ではOS中央値 約24.5ヶ月 vs 約23.1ヶ月。
  • タラゾパリブ+エンザルタミド(ターゼナ+イクスタンジ)のOS中央値は約45.8ヶ月 vs 約37.0ヶ月(TALAPRO-2試験、mCRPC一次治療、遺伝子変異不問)。適応拡大 申請中。

注意すべきは、これらの数字はあくまで臨床試験の集団全体の中央値であり、個々の患者にそのまま当てはまるわけではないということです。また、各試験の対象患者の治療歴や病態が異なるため、数字を足し算して「合計で何ヶ月生きられる」と計算することもできません。

まとめ — 選択肢は増えたが、時間は大きく変わっていない

この2年だけを見ても、去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する治療の選択肢は確実に増えました。2024年にPARP阻害薬がmCRPCに承認され、2025年にはPSMAリガンド療法(プルヴィクト)が承認されました。タラゾパリブの遺伝子変異不問での適応拡大が実現すれば、さらに広がります。アルファ線治療の治験も国内で複数走っています。

しかし、ホルモン療法が効かなくなってからの見通しをOS中央値で見ると、一次治療のエンザルタミドで約32ヶ月、アビラテロンで約35ヶ月、新しいタラゾパリブ併用でも約46ヶ月です。選択肢は増えても、去勢抵抗性になってからおおよそ3〜4年程度という大枠は大きくは変わっていません。

これは、冷静に受け止めなければならない数字です。

そう考えると、今回の間欠的ホルモン療法(休薬)には意味があるのだろうと思います。ホルモン療法が効いている期間をできるだけ長く保つことが、結果的にその先の時間にも影響するからです。

新しい治療の意義は、余命を劇的に延ばすというよりも、がんが進行していく過程で「次の手がある」ということにあります。効かなくなったときに別の手段がある、副作用や体の状態に合わせて選べる——そうした打ち手の厚みが、この数年で大きく変わったことだと思います。

もちろん、どの薬剤をどの順番で使うかは、それまでの治療歴、遺伝子変異の有無、骨転移の状況、全身状態など、個別の判断が必要です。最終的には担当医との相談で決まることですが、患者の側も選択肢の全体像を知っておくことには意味があると思います。

この記事は2026年4月時点の情報に基づいています。タラゾパリブの適応拡大は承認申請中であり、正式承認はまだされていない可能性があります。また、治療に関する判断は必ず担当医とご相談のうえ行ってください。


  1. ある治療を開始した患者集団のうち、半数が亡くなり半数がまだ生存している時点までの期間 

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